
はりお仕着せの観客、つくられた観客、本当にその日そのときの座席を確保して、その芝居を楽しみに行く観客が生まれないことには、日本の場合、欧米並みの演劇文化というものはできないと思います。 ですから、いろいろなところにすてきなホールができた暁には、大東京の中心のホールのように年間効率よくぎっしりお埋めになるというのは当然できないことでございますから、何日かのそういう地元の人たちが本当に楽しめる、あるいは喜びを持てる、感動を持てるそういう場を少しでもいろいろなところでやっておいていただいて、その人たちがたまたま京都見物で大阪へ来たときに、関西へ来られたときに、ドラマシティで何をやっているんだと興味を持ってもらう。それはコロラドやテキサスの田舎からニューヨークヘ出てこられた老夫婦たち、僕がたまたま行っていたときに、座席を座り間違えて案内のおばちゃんに怒られている夫婦たちを見まして、ああ、コマ劇場の客と一緒やなと思ったことがあるんですけれども、そういう人たちの舞台への反応の仕方というのは、日本では見られないようなすばらしい観客であったように思います。 これはちょっと余談ですけれども、スタンディング・オベーションということが外国ではしょっちゅう行われますね。それは立って拍手をするわけですけれども、あれはもともと興奮して立って拍手をするという場合ではあるんですけれども、トミー・チューンというブロードウエーのダンサーであり、演出家であり、振り付け家であり、日本へも宝塚歌劇団の「グランドホテル」の演出、振り付けに来たりしている有名な人ですけれども、彼が言っているのは、日本の場合はぜいたくにゆっくりと座席をとり過ぎるんですね。 だから、日本で800席のホールは、ブロードウエーだったらもう1000席、わざとぎゅうぎゅう詰めに席を詰めるというのです。あの足の長い外国人でさえ、座り心地が窮屈な席の幅、席の配列の仕方をする。もちろん、中通路なんかがありませんので、日本の消防法とはちょっと違いますけれども、席と席の間をわざと詰め詰めにする。だから、おもしろくなければ幕がおりれば黙ってさっさと帰るだろうし、すばらしければすばらしいほど思わず立って―窮屈だから座って拍手しているよりも立って拍手した方が楽ですから―やるために席を詰め詰めにしているんだとトミー・チューンが言ったというのを私は人から聞きました。 だから、日本のホールはひょっとしたらぜいたくにつくり過ぎて、寄りかかったリクライニングシートではありませんけれども、すぐ眠くなるようなふかふかのいすというのがゴージャスなホールの、あるいは劇場の設備なんだと思われているようですけれども、実
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